サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法 展
一枚のポスターが、旅に誘う。
一枚のポスターが、あこがれの商品を身近にする。
一枚のポスターが、映画館へ向かわせる。
これまで、どれだけのポスターにふれてきただろうか。
そして、ポスターのメッセージにこたえて、アクションをおこしたことだろう。
街角や駅、ショッピングモールや映画館などで見かけたポスターをはじめ、ギャラリーやミュージアムで目にし、心に残ったものを話題に、しばしポスターの世界に迷いこんでみたい。題して「ポスターの散歩道」
広島県立美術館で、フランスのポスターアーティスト、サヴィニャックの特別展が始まった。
それは、ポスターのワンダーランドだった。
美術館の入口ドアやエスカレーターのそばに、サヴィニャックのポスターから抜けだしたキャラクターが、あいさつしたり道案内をしてくれる。
3階の会場の入口をかざるのは、〈ドップ:清潔な子どもの日〉と題された石鹸のポスターを利用したもの。伸びた象の鼻先がシャワーとなり、子どもの頭に降りそそぐ。鳥居のような象の鼻をくぐって、サヴィニャックのポスターの世界へ。
会場を一巡して感じたのは、ポスターが「街のいこい」になっていたのでは、ということだった。人びとは、街角に貼られたポスターや、地下鉄構内を飾るポスターを見て、日常のおだやかなひと時を、過ごしていたのではなかろうか。
特に印象に残ったのが、地下鉄構内に掲出された作品。3m×4mという巨大な〈マギー・チキン・ブイヨン〉(1962)で、リトグラフで分割印刷された6枚を貼りあわせたものだ。
貼り出された当時のポスターの様子を、そばに展示された写真が教えてくれる。
地下鉄駅ホームはトンネル状になっており、壁面はカーブを描いてホームを包みこんでいる。地下鉄利用者は、列車を待つ間、線路ごしに反対車線のホームを見る。その壁に巨大なポスターがある。地下鉄の構内ポスターは、線路ごしに見られることを想定して制作されていたのではなかろうか。だから、巨大さが要求されたのだろう。
構内写真に「PONT-NEUF」(ポンヌフ)と、駅名が読める。「ポンヌフの恋人」というフランス映画を思い出した。
会場の一角に、サヴィニャックが表紙を描いた本の展示コーナーがあった。
ルイ・ペルゴー著「ボタン戦争」(1963)が、目にとまる。素っ裸の少年と、ちりばめられたボタンが描かれている。
あの映画の原作だったのかと、なつかしい映画が頭にうかんだ。「わんぱく戦争」。タイトルは日本向けに変更されているが、少年たちを主人公にした、奇想天外な楽しい映画だった。
サヴィニャック展は、パリにタイムスリップし、魔法をかけられた2時間だった。